岡山大学 He³ Project

プロジェクトの詳細

背景

ヘリウムは、MRI、NMR、超伝導磁石、半導体製造など、先端科学技術を支える重要な天然資源です。特に液体ヘリウムは、約−269℃の極低温を実現できる唯一の冷媒として、超伝導機器の運用に欠かせません。
一方、ヘリウムは天然ガス田から採取される有限資源であり、一度大気中に放出されると再利用できません。近年は世界的な需要増加や供給の偏在により、「ヘリウムショック」と呼ばれる供給不足や価格高騰が繰り返し発生しています。日本はヘリウムの全量を輸入に依存しているため、安定供給の確保とリサイクルの推進が重要な課題となっています。

岡山大学He³プロジェクト

このような背景のもと、岡山大学では、ヘリウム資源の循環利用と持続可能な研究環境の実現を目指し、「He³プロジェクト(HeReNet・HeliGet・HeliSET)」を推進しています。各プロジェクトの詳細は、下の〇をクリックしてご覧ください。

HeReNet:中四国・播磨リサイクルネットワーク

HeReNet:Helium Recycle Network


岡山大学と中四国・播磨の大学・高等専門学校・研究機関など8機関による日本最大規模のヘリウムリサイクルネットワークです。


岡山大学では2026年度末に現有液化システムの再生と新液化システムの更新が予定されています。更新される新システムは性能が現有システムの約2倍を想定しており、2027年度以降の岡山大学の液化能力はこれまでのおよそ3倍ということになります。そのため、学内リサイクルだけでは余剰が生じることが予想されます。この余剰分を近隣地域や日本の最先端研究に役立たせるために何ができるかを考えました。


本学が中四国・播磨地域の国公私立大学・高専・研究機関・企業へ独自に行なった調査によると、民間業者から9,000円台/㍑で液体ヘリウムを購入している機関や、1回に250㍑以上でなければ買えない場合もある等、極低温での最先端研究の必需品であるヘリウムが、各機関の支出を圧迫している現状が分かりました。今や低温実験は一部の限られた研究者にしかできない実験となってしまい、これが日本の研究力低下の一因になっていると考えられます。


そこで、2026年度に本学が更新する「ヘリウム液化・供給システム」を用いて、他機関へ安価に液体ヘリウムを供給することで、本学のみならず、中四国・播磨地域の大学、高等専門学校、研究機関等へ裨益すること考えました。
この取り組みにより、岡山大学は量子科学、革新材料研究、創薬、高分子化学、生体研究、宇宙科学、素粒子物理学など多様な分野の先進装置の運用継続に貢献します。また、これらの先端研究を支えるだけでなく、地域との連携やこれによる相乗効果など波及効果は多岐にわたると
考えます。


既に連携を組んでヘリウムリサイクルを行っている大阪大学ー奈良高専の先行事例に学びを得て、岡山大学は、中四国・播磨地域の大学・高専・研究機関のうち8機関を巻き込んだ日本最大規模のヘリウムネットワークを構築しました。参画機関は以下の通りで、装置数は23台にもなります。

※詳細⇩
大阪大学における ヘリウムリサイクルの取り組み


2026年6月現在、多くの連携機関で「ヘリウムガス回収装置の設置」と「現地で回収したヘリウムガスのガスバッグからボンベへの圧縮回収」が実施され、フェーズ1の大詰めを迎えています。さらに、フェーズ1の完了を待たずして、一部連携機関ではフェーズ2に突入しました。2026年度末の岡山大学の液化機更新後にフェーズ3に移行できるよう我々プロジェクトチームは鋭意努力を続けており、当初の想定を上回るスピードで順調に実現へのロードマップを突き進んでおります。

HeliGet:使用済設備からのヘリウム回収・再利用

HeliGet:Helium Get


大学・研究機関・民間企業と連携し、使用済みのMRIやNMRに残存する貴重なヘリウム(液体・気体)を回収し、リサイクルする事業です。


国内では年間約550台のMRIが廃棄されています。MRIには液体ヘリウムが1000 L/台も充填されており、年間で最大55万リットルの液体ヘリウムが大気放出されてしまいます。理化学研究所では、企業と協力して使用済みMRIからのヘリウム回収を行っておりましたが、理化学研究所以外にも拠点があれば、より多くのヘリウム回収が可能になります。理化学研究所からお声がけいただき、岡山大学は西日本の拠点となるべく、HeliGetプロジェクトを立ち上げました。


理化学研究所と企業による使用済みMRIからのヘリウム回収実績・ノウハウをベースに発展・拡大させ、ロールモデル化を目指します。

使用済みMRIを液体ヘリウムが入った状態で理化学研究所に搬入し、MRIから液体ヘリウム容器を取り出してヘリウム回収配管に接続します。1週間かけて容器内で徐々に蒸発したヘリウムガスを回収し、再液化します。回収して再液化したヘリウムの一部は新規MRIにて再利用される仕組みとなっており、すでに、約10,000 Lの液体ヘリウムの回収実績があります。

※詳細⇩
液体ヘリウムを回収する ヘリウムリサイクル事業「RIKEN-HeLP」 |仁科加速器研究センター
ヘリウムリサイクル事業「RIKEN-HeLP」開始 | 理化学研究所


理化学研究所のメソッドでは、液化施設内に大型クレーンが必要となり、岡山大学では実現が難しくなります。そこで、岡山大学では、使用済みMRIを所有する施設にデュワーを運び込み、現場でデュワーに回収して岡山大学に搬入する新メソッドを検討中です。


理化学研究所の「RIKEN-HeLP」と岡山大学の「HeliGet」の東西二拠点のヘリウムリサイクルネットワークにより広域で使用済設備からのヘリウム回収実証を行っていきます。さらに、「HeliGet」のヘリウム回収メソッドをロールモデル化することにより、他大学が新たな拠点として参画することも可能であると考えております。

HeliSET:ヘリウム関連人財育成プログラム

HeliSET:Helium Skill Expert Training


ヘリウム関連人材育成プログラムの開発と実装 です。


・次世代を担うヘリウムユーザーの育成
・ヘリウム供給価格の安定化


①マニュアル化
ヘリウムに関する専門知識を有しない受講者でも理解できるよう、基礎的な内容から体系的に学習できる教材の整備を進めています。本教材では、ヘリウムの基礎物性、供給動向、液化技術、回収・リサイクル技術、安全管理、研究利用事例などを幅広く取り上げ、ヘリウムに関する知識と技術を総合的に習得できる内容を目指しています。また、90分×15回の講義を想定したカリキュラムを構築し、次世代のヘリウムユーザーおよび技術人材の育成に資する教育プログラムとして開発を進めています。

②実習・デモ実験
座学による知識習得に加え、映像教材等を活用した視覚的な学習機会を提供することで、ヘリウム利用技術や関連設備に対する理解の深化を図ります。
さらに、液体ヘリウムを用いた実験やトランスファー実習などの実践的なプログラムの導入を計画しており、理論と実務の双方を体系的に学ぶことができるハンズオン型教育プログラムの構築を目指しています。
  

③強力なサポート体制
岡山大学の教員や他大学のヘリウムを扱う熟練技術者の皆様からのアドバイスのもと資料をブラッシュアップしております!